『早朝始発の殺風景』を読んで

読み終わってだいぶ経ってますが、思い出しながら感想を書いてみます。

 

こちらの本には5つのストーリーが書かれていて、題名はその中のうちの一つです。

 

5つのストーリーは直接的に繋がっているわけではなく、どちらかと言えばかすっている程度。本の後半で、各ストーリーの登場人物がちょっと出てくるくらいで、おおっ!となる伏線は張られていないような気がします。なので、5つのストーリーをそれぞれ楽しむことができます。

 

せっかくなので、表題作の『早朝始発の殺風景』とについて。

 

あらすじは、ある日、誰も乗っていない午前5時35分始発の電車に加藤木くんが乗り込むと、同じ高校・同じクラスの、苗字が殺風景という女子生徒が乗っていました。

お互い普段話さない関係性の二人。電車の中で微妙な知り合いになるほど気まずいものはないわけですが、「加藤木くん..」「座れば?」と殺風景に声をかけられ、加藤木は隣に座る。

 

いろいろと勘ぐります。

 

高校の校門が開くのは7時半。朝礼は8時40分。

彼らの駅から電車で20分の距離にある高校。

3時間も何をするのか、怪しいと、お互い自分のことは棚にあげて推理し始めます。

 

気まずい雰囲気の中、おとなしめの二人が理攻めし、推理し合うところがまたおもしろかったです。クールぶってますが、二人にはそれぞれ意味深な「アリバイ」「目的」があるので、推理中、微妙に気が気じゃない描写も好きでした。

 

高校生時代の自分も電車を利用していました。

高2以降は始発の次の電車、通称「6時半電」に乗っていました。

理由はシンプルで「人混みが嫌だから」です。7時以降の電車は座席に座れない、うるさい、勉強できないで、「最悪だな」と思ってましたが、高2以降は弓道の朝練に行く兄を見習って早い電車で行くことを決意。

 

早朝の電車は2~3両編成、6時台ということもあり、人は本のように無人ではないにしても、まばらで余裕で座れました。

 

早朝電車生活で何か思い出がなかったと記憶を掘り起こしてみますと、一番先に思いついたのは「タランチュラ事件」でしょうか。

「これタランチュラじゃね?」となるくらい黒くて成人男性の手の平サイズの蜘蛛が、電車の中を渡り歩いていたんです。

 

(早朝から)イチャコラカップル高校生のところへおもむろに近づいた蜘蛛さん。あらかじめ男の方に糸を引いていたのか、「あっちいけぇ!」と足を振り上げると、当たってもいないのに蜘蛛が飛ぶ。3m先のぼくの足元へ。

 

でも、当時のぼくってクールキャラでいたかったがために、動じなかったんです。カエルすら当時は無理だったのに、いわんや蜘蛛なんて。内心、キャッ!と悲鳴を上げたかったですが。

でもなぜか蜘蛛は迂回し、またカップルの方へ。

「来た来た!」と焦るカップル。

 

まばらな周りの観衆も視線を送っている状況でした。

 

そんな中、一人の男子高校生がティッシュを1枚カバンから取り出し、蜘蛛の上にサッとかけ、なんと素手で鷲掴み。掴んだ蜘蛛を窓からポイっと放り投げその場を収めました。

カップルはその行為を「うわっ!」と悲鳴を上げて引いてました。お礼も言ってませんでした。水をかけてやりたかったです。

 

あの高校生の制服や電車の過ごし方から判断して、間違いなく地域イチの超進学校。ぼくよりおそらく1コ年下。

 

名前すら知らない早朝6時半電の彼は今、何をやっているのか、社会でどんな歯車として働いているのか、なんとなくふと、気になる。